中谷ミチコさん
影、魚をねかしつける。 Shadow, Lulling the Fish to Sleep
鑑賞の御礼
半田こづえ
「駅」
沢山の人の中から私をめがけてやって来る松山さん。2年ぶりの、嬉しい再会。心が急に明るくなる。
次はもう少し小さな駅。松山さん、人並みの中に渡川さんを見つける。2年ぶりの再会。心がまた、明るくなる。
「美術館」
高い壁の前に立つ。触るとひんやりとする、手をそっと動かすと、艶やかな色調のところとくすんだ色調のところみたいに、つるつるしたところと素地に近いところとがあって、緩やかにカーブしている。
そして、下の方。「あ、なにか向こう側にある。」うろこのような物を持つ生き物?長い、永い体と丸く飛び出した顔。
右側には、サラサラの髪の毛を持つ、これは、子供?すべすべした頬と少し斜めを向いた顔。その隣にも、その隣にも、地面にしっかりと立っている人たちの足の指。「みんなどこへ行くの?こちらに向いて戻って来て!」と心の中で話しかける。
「講堂」
中谷さんが入って来る。私たちに挨拶をしてくださる。嬉しい。
「不在を表現するには、存在していないといけない。」という言葉に、はっとした。どれほど誠実に仕事をされたのかを思う。子どもたちの髪の毛1本、すべすべとしたほっぺたを思い出す。
「夢」
彫刻を鑑賞した日の夜、夢を見た。
夢の中、私はまだ5歳になるか、ならないくらいの娘を抱いて病院の診察室にいた。男の医者がベッドに娘を寝かせ、険しい声で言った。「この子はだんだん機能しなくなる。今直ぐ施設に入れる。1週間だけはそこにいられるがその後はどこかに移される。もう会えなくなる。」私は訳が分からず、娘の父親に知らせようと夢中で家に戻った。
家のドアを開けると、なぜかあの医者の声が聞こえる。ソファに座って、娘の父親と話している。そして、その医者には鱗があった。娘の父親は元気のない声で答えているが、医者の話に引き込まれて行くようだ。待って!と叫んだ瞬間、目が覚めた。
私の腕の中に、あの彫刻のように、この手に抱きしめていた娘の形がそのまま陰として残っていた。そして、魚のうろこを纏った男の姿も見えるようだった。
もしかしたら彫刻の中のあの子たちは魚に身をやつした闇がこの世に出て来ないようにそっと寝かしつけているのかもしれない。
結界を破って邪悪なものが私たちの世界に入らないように守ってくれているのかもしれない。
ありがとう。そのことにあまりにも無自覚だった自分が恥ずかしくなった。あの子たちは、自分の物語を生きられずに世界の向こう側に行ってしまったと思ったけれど、今も物語を生きているのだろうか?どんな物語を?そして幸せにしているだろうか?
